本特集は、機械設計(2016年8月号)に掲載された当社記事を再構成したものです。
1. はじめに
昨今、リニアモーターが世界中でずいぶん使われるようになってきたと実感している。採用者側はビジネス戦略上、他社製品との差別化や優位性からもリニアモーター採用へ流れとなってきている。
従来、産業機械や測定器の直動システムでは、回転型モーターであるステッピングモーターやサーボモーターとボールねじの組み合わせで直線運動に変換してきたのが主流であった。
しかし、産業機械や測定器の高性能化に伴いより高速、より高い位置決め精度がもとめられるようになってきている。ボールねじによる直動システムでは限界があり、今まで以上の大幅な高性能化は根本的に望めないところまできていると言われている。これは、モーターとボールねじピッチの分解能に依存したものにより相反する高速性と分解能に限界が出てきている。速度安定性に関しても10mm/secでの1%以下にすることは従来の手法では非常に難しい。
ここでGMCヒルストン社(開発、製造元)のシャフトモーターを紹介する。シャフトモーターは、これら従来の構成によるモーションコントロールを根底から変える革新的なモーターである。
2. リニアモーターの構造と動作原理
構成はいたってシンプルであり、磁石が入っているシャフトと、コイルの入っている可動子からなる。
シャフトは、ステンレス製パイプの中にNd-Fe-B磁石を等間隔に詰めたものである。可動子は、シャフトを周回するように巻かれたコイルで3相(U/V/W)に配置してある。3相であることから、各メーカーのドライバーに対応が可能である。
可動子とシャフトは非接触であり、システムに組み込み時ギャップがあるようになっている。この時、偏心して組み込まれても推力には影響がなく、取付けは簡単である。なんでもないようであるが、実用上非常に重要なポイントである。
動作原理は、永久磁石から発生する磁束とコイルに流れる電流との作用(フレミングの左手の法則)により推力が発生する。
推力は次式で表される。
F = B x I x L
F:推力(N)
B:磁束密度(T)
I :電流(A)
L:磁界が発生するコイルの長さ (m)
3. シャフトモーターの特長
前途のような構造により、以下の特長がある。
- 位置決め精度は機械精度に依存せず、リニアスケールに依存する。
高精度のリニアスケールを使用することにより高精度の位置決めが実現する。バックラッシュがない。 - コアレスであるため、コギングがほとんど発生しない。低速時の速度リプルがきわめてよい。
- 単純な構造で自由度が大きい。
- 永久磁石から発生する磁束を外側のコイルが360度包んでいるようになっており、磁束を有効活用できる。
4. 他リニアモーターとの比較
シャフトモーターと他リニアモーターとの位置づけを示す。
リニアモーターとしては、コア付が一般的であるが、コギングによるリップルが大きいことと、磁気吸引力が大きいことにより期待される精度の向上およびメンテナンスフリー、信頼性の向上などを阻害する。
これに対してシャフトモーターは推力リップルがほとんどなく高精度が達成でき、吸着力がないために組み立てが簡単であるなどコアレスリニアモーターの特長をそのままに高推力を実現している。
また、平板型コアレスリニアモーターやU字型のように、コイルが磁石に挟まれている状態で熱がこもりやすい。
シャフトモーターは、外にコイルが剥き出しになっており、放熱しやすい。
5. シャフトモーターの応用例
一般的な機構との組み付けのスタイルを示す。(図8)
シャフトモーターは、要求に合わせたストローク長の違いを選ぶことができる。同時に要求推力によって、シャフトの径を選ぶことができる。この径の違いにより大まかな用途の違いを記しておく。
小径サイズ(Φ4~12mm程度):主にデスクトップタイプの装置に適している。前途の特長により特に小径シャフトはマイクロスコープ関連のステージに採用が多く、工業製品や生物バイオ関連などの観察用途などがある。
この業界は高解像度化が進む画像とその画像処理が求められている分野で、シャフトモーターの高分解能(スケールによる)、高精度で低リップルの性能が求められている。
このタイプには、クロスローラータイプのガイドがシャフトモーターと組み合わせて使われ、高精度で低速度での低リップルというシャフトモーターの特長を引き出している。
デスクトップタイプの装置にはステッピングモーターも安価で制御のしやすさで採用されることも多いが、独特の音があり分析機分野では低騒音が求められ、静かなシャフトモーターはこれにもはまっている。
中経シャフト(~Φ35mm):このサイズは多く採用され高推力、高速、高精度が求められている分野、工作機械や半導体などに多く採用されている。非接触でメンテナンスフリーであることも大きなアドバンテージである。
大径(~Φ60mm):最大で60.5mm径のシャフトの加速推力は3,100Nあり特殊用途が多いようである。 その他ユニークな使い方も可能である。(図1~4)
たとえば複数の可動子を一本のシャフト上で独立動作させるマルチ駆動が可能である。これはボールねじでは到底できない動作となる。
また同じく一本のシャフト上で可動子を連結したタンデム駆動により推力を倍増させることも可能であるし、シャフトモーターを並列に使ったパラレル駆動などがある。
パラレル駆動は主にガントレー(もん型)スタイルでのシステム構築で有効である。さらに、発想を転換させ可動子を固定し、シャフト側を動かすことでケーブルの耐久性を考えずに動作させることもでき、技術者のアイデア次第で様々な構成が可能である。
主に水平軸(XY軸)での用途が多いが、重力軸(Z軸)での使用にはカウンターバランスなどで電源オフ時の工夫が必要である。
6. まとめ
ボールねじからの置き換えという旧来の発想ではもはやなくなってきており、最初からリニアモーターの使用ありきで採用が進んでいる。
かつてサブナノレベルを要求される分野は一部のニッチマーケットであったが、
現在の技術発展と各分野に広がっており、ここにリニアシャフトモーターが使われはじめている。
また、シャフトモーターを核にスケールを内蔵したものや、直線と回転を組み合わせたアクチュエーター化など、さらなる進化が期待される。