ステッピングモーターの誤動作

ドライブICとは直接関係のないステッピングモーターの誤動作について説明します。

ステッピングモーターはステーター側の電磁石の励磁を順番に切り換え、それにローター側の永久磁石が吸引・反発し、電磁石の励磁変化に同期しながら回転します※1
モーターを動かす場合はローター位置が電磁石の励磁に同期していると想定して制御を行いますが、ある条件においては、電磁石の励磁の変化に追従できず同期が外れてしてしまう場合があります。そのある条件での誤動作についての説明をします。


※1 ステーターのことを固定子,ローターのことを回転子ともよびます。また、VR型の場合はローターに永久磁石を使わないので吸引のみで動作します。

1. ステッピングモーターのローターの挙動

ステッピングモーターのローターは、ステーターの電磁石と吸引・反発して動作するため、
1ステップずつ動かすとローターは減衰振動して安定点で停止します。
この振動は、モーターサイズ,コイル巻き線,励磁電流,励磁方式,ローター慣性,負荷の粘性/慣性などで変化します。
高速で動かす場合は、振動が発生する前に次の指令パルスが入ってくるため、振動の影響を受けなくなります。

2. ステッピングモーターの脱調

先に説明した通り、ステッピングモーターはステーター側の電磁石の励磁切り換えに、ローター側の永久磁石が同期して回転します。ステーター側の電磁石の励磁変化が急激だったり、励磁変化の速度が速すぎたりすると、ローターの動きが電磁石の励磁変化に追従できず同期動作できなくなる場合があります。これを脱調と言います。

一定周波数のパルスを入力してモーターが同期起動できる速度を自起動速度と言い、その速度以上では電磁石の励磁変化にローターが追従できずに脱調してしまいます。自起動速度以上のプルアウトトルク内で動かす場合は、プルイントルク内で起動させた後、加速させてローターが追従出来る様にします。※2

プルアウトトルクを超える様な速度では電磁石の励磁変化速度にローターが追従できずに脱調してしまいます。
その様な場合は、①高速で回せるモーターを使う,②モーター電圧を上げる,③モーター電流を調整するなどの対策が必要です。※3



※2 自起動速度と負荷トルクの関係を表したトルクカーブをプルイントルク。同期運転が可能な速度とトルクの関係を表したトルクカーブをプルアウトトルクとよびます。連載第8回の「1. プルイントルクとプルアウトトルク」を参照ください。
※3 モーター電流を上げると安定点で止まろうとする力がブレーキとなってしまう場合があり、モーター電流を下げた方が高速で回る場合もあります。

3. ステッピングモーターの乱調

ローターが振動している時に次のパルスが入力されると、正方向に回ろうとする力と振動で逆方向に動こうとする力がぶつかって打ち消し合う場合があり、負荷条件やモーターの固有振動数などによっては、ローターが正常に動けず位置ずれが発生する場合があります。これを乱調と言います。乱調が発生するパルス周波数は幅を持っており、この周波数帯域を乱調域と言います。※4

乱調域は2-2相励磁(基本ステップ)で、PMモーターは250pps以下,HBモーターは500pps以下の帯域にある場合が多いです。
乱調の対策としては、①乱調域を避けて使う,②駆動電流を減らす,③マイクロステップを使う,④ダンパーを付けるなどがあります。※5




※4 乱調域以外に「共振領域」や「共振周波数」と表現する場合もあります。その帯域中のモーターが正常に回転出来ない現象が「乱調」となります。
※5 ②③は停止時の振動を減らすことにより乱調を発生しにくくします。また、負荷を付けると負荷の粘性がダンパー代わりになり乱調が発生しなくなる場合もあります。

4. ステッピングモーターの逆転

大きな負荷慣性,動作速度,ローター振動などの条件が重なった時に逆方向の外力が加わると、逆方向に回転してしまう場合があります。
ステッピングモーターはステーター側の電磁石の励磁切り換えに同期し、ローター側の永久磁石が吸引・反発して回転します。




2-2相励磁で1ステップ進む場合、下図の様に磁石同士が引合う元の励磁安定点から、次の励磁安定点へ移動します。
通常の動作では、励磁を切り換える前と後で、電気角で90゜分移動します。





しかし、大きな慣性の負荷に、ぶつかるなどの原因で逆転方向の力が加わった場合、反発し合う励磁点を乗り越えて、次の励磁安定点に向かって逆方向に動いてしまう場合があります※6。その場合、電気角で-270゜分移動してしまいます。

負荷慣性,ローターの振動,パルス入力速度などの条件が重なった場合は、連続して反発し合う励磁点を乗り越えて、逆方向に正常動作時の3倍の速度で回転してしまいます※7




逆転の対策としては、
①負荷慣性を小さくする,
②動作速度を変更する,
③モーター電流値を調整する,
④プルイントルクが外力より大きいモーターを使用する,
⑤乱調域を避けて使用するなどがあります。

また、
⑥安定点と安定点の距離が短い1-2相励磁やマイクロステップなどの励磁方式も対策として有効です。

ステッピングモーターはフィードバック制御不要で位置,速度制御が可能なモーターです。
ただし上記の様なウィークポイントもありますので、それらを理解の上で適切な条件で使用して頂ければと思います。



※6 逆転の引き金としては、必要以上のメカエンドでの押し込み動作からの反発や、メカエンドへぶつけて停止させた時の反発による場合が多いです。押し込みを行う場合は押し込みストロークの実測確認を行い、大きな反発トルクが掛からない停止位置にする必要があります。
※7 1パルスあたり90°動くはずが、1パルスあたり270°動くために3倍の速度になります。

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