定電流ドライブICを使用する際の発熱について説明します。
モーターのパワーが必要な場合は電流を多く流すことによりパワーは上がりますが、その代わり発熱も大きくなってしまいます。
その様な場合のモーターとドライブICの発熱イメージについて説明します。
1. モーターの発熱について
モーターの熱は損失(銅損,鉄損,機械損)から発生します。
銅損:モーターコイルの巻き線抵抗と流れる電流から発生する P=I2Rの電力損失。
鉄損:磁界とその変化による損失。ヒステリシスによる損失と磁界の変化により磁性体に発生する渦電流による損失がある。渦電流損は電磁調理器が調理器具を発熱させるのと同じ原理で、モーターでは薄い鉄板を重ねて(積層鋼板)使うことにより渦電流損を減少させる。
機械損:モーター内の摩擦や空気抵抗などによる損失。割合は小さい。
これらの損失のうち機械損の割合は小さく、鉄損は積層鋼板を使用する様な中大型モーターを高速動作させたときに顕著になります。
弊社のPMタイプの様な小型モーターでは銅損が発熱に関して大きな割合を占めます。
ステッピングモーターの銅損は、モーターコイルの抵抗成分Rとそこに流れる電流から発生する電力損失になります。ただしステッピングモーターにはA相/B相の2つのコイルがあるため、コイル2つ分の電力損失が熱になります。※1
[PCLOSS=(I2×R)×2][図1]
また、モーターが許容できる電力はモーターのサイズでほぼ決まり、大体の目安として、モーターの定格電圧と巻線抵抗からモーターの許容電力が推測できます。
[PMOTOR≒(V2÷R)×2]
ただし、この許容電力は放熱しない状態でモーター外被温度が高温になる値ですので、その点を考慮する必要があります。
発熱を抑えるには放熱および電流低減が効果的で、特に電力は電流の二乗に比例しますので、電流を7割にすると発熱はおよそ1/2、電流を半分にすると発熱はおよそ1/4になります。
※1
2-2相励磁の場合はA相/B相2つのコイルに電流を流します。
1-2相励磁の場合はステップ毎に電流の流れるコイルが1つ⇔2つと切替わります。
マイクロステップの場合は2つのコイルに電流を流しますが、電流の割合が変化しますので実効値電流での計算が近くなります。
2. ドライブICの発熱について
ドライブICの発熱は殆どがパワー素子から発生します。
FET:ON時のドレイン-ソース間の抵抗値と流れる電流から発生する P=I2Rの電力損失。
トランジスタ(バイポーラ):コレクタ-エミッタ間電圧と電流から発生する P=VIの電力損失。
ダイオード:ダイオードの順方向電圧と順方向電流から発生する P=VIの電力損失。
および、スイッチング損失が発熱の原因になります。[図2]
FET ON抵抗は近年の0.1~0.4Ω位と低くなり、ドライブICの殆どがFET素子を使用しています。
例えばIM=1Aの電流を流す場合に、トランジスタのコレクタ-エミッタ間電圧の飽和電圧VCE=0.6V、FET ON抵抗RDS=0.2Ωとすると、
トランジスタ損失:1A×0.6V=0.6W,
FET損失:1A2×0.2Ω=0.2W
とFETの方が電力損失は少なくなるためFETが使われるようになりました。※2
また以前は回生電流をFETと並列にあるダイオードを通して回生していましたが、最近では回生時のダイオードの電力損失 P=VF×IFよりロスの少ないFETをONさせて、FET側に回生電流を流して損失を低減させるICも増えています。[図3]
ドライブICにはユニポーラドライブ用とバイポーラドライブ用のICがありますが、
電力損失を計算する場合、バイポーラドライブでは電流が通過する上下のFETのON抵抗を合わせた抵抗値で損失を計算する必要があります。[図4]
どちらのドライブICもA相/B相の2つのコイルがあるため、回路2つ分の電力損失が熱になります。※1
[PLOSS=(I2×RDS)×2]
ドライブICが許容できる発熱はIC仕様のディレーティングを考慮した許容損失(W)により決まり、動作温度,周囲温度,放熱条件などから計算して求めます。最終的には使用するモーターを色々な条件で動作させ温度測定を行い妥当性の判断を行います。※3
発熱を抑えるにはモーターと同様に放熱と電流低減が効果的で、電流を7割にすると発熱はおよそ1/2、電流を半分にすると発熱はおよそ1/4になります。
※2.電力は電流の二乗に比例するため、大電流の場合はトランジスタが有利になる場合もあるためIGBTなどがあります。
※3.ドライブICにはターゲットとするモーター電流があり、大電流用ドライブICで小電流のモーターを動かす場合に調整が難しい場合があります。その様な場合は事前にICメーカーへの確認を推奨致します。