今回は、定電流タイプドライブICの電流設定と出力電流の誤差について説明します。
1.出力電流誤差の要因
定電流制御タイプのドライブICは、モーターコイルの電流を電流検出抵抗に流し、オームの法則でその抵抗の両端に発生する電圧と、VREF(基準電圧)端子に印加される電圧をコンパレータ回路で比較した結果で出力トランジスタをON/OFFし、モーターコイルに流れる電流を制御します。※1
ドライブICの基準電圧と出力電流の関係は、ドライブIC毎の計算式で定義されますが、計算値と実際のモーター電流の値には誤差が生じます。この誤差の要因について説明します。
※1. 定電流制御ドライブICについては「第5回.定電流ドライブICを使用する際の電流設定」を御参照ください。
ドライブICの誤差
電流検出抵抗は、発熱及びモーターコイル印加電圧のロスを減らすために低い値の抵抗を使用します。但し基準電圧と比較するには、低い抵抗値で発生する電圧は小さいため、ドライブIC内部では検出抵抗からの発生電圧をアンプ回路で増幅してからコンパレータ回路で比較します。
ドライブICは、これらの回路をA相用とB相用に2回路持っています。
また、外付けの検出抵抗の代わりに電流検出回路をドライブICに内蔵する物もあります。
これらのアンプ回路やコンパレータ回路,電流検出回路のバラツキが、A相とB相回路間およびドライブIC個体間に存在します。
これらのバラツキにより、ドライブICの標準電流値での基準電圧と出力電流の誤差は5~7%になる可能性があります。
また誤差値の幅は電流値設定より変化が少ないため、電流値を下げると誤差の割合が大きくなります。このため、低い電流値設定では誤差が15%近くになる場合もあります。
この他にドライブICの発熱が大きい場合に誤差が大きくなる場合もあります。
周辺回路素子の誤差
同様に、検出抵抗の精度も出力電流に影響を及ぼします。
また、基準電圧を切り替える回路を組む場合は、切り替え回路を構成する素子のばらつきやノイズが乗りにくい様にする考慮が必要です。
モーターの誤差
これらのバラツキは電流の流れ方に影響を与え、次に説明する測定方法による誤差に影響を与えます。
測定方法による誤差
この様に一定時間ごとの電圧ON/OFFを行うためモーター電流にはリプル成分が含まれます。また、リプル電流の振れ幅はインダクタンス値により変化します。
出力電流値が大きい場合はリプル電流の占める割合は少ないのですが、出力電流値が小さくなるとリプル電流の占める割合は多くなります。
また、インダクタンスの大きいモーターではリプル電流の振れ幅は小さいのですが、インダクタンスの小さいモーターでは電流の立ち上がり/立ち下がりが早いためリプル電流の振れ幅は大きくなります。
モーター電流を電流計で測定する場合、このリプル電流の影響を受ける可能性があります。
定電流制御ドライブICはピーク電流値基準で制御を行いますので、実効値タイプまたは平均値タイプ電流計で測定する電流値とは差が発生します。
特にインダクタンスの小さいモーターを小さい出力電流で動作させる場合は、基準電圧で設定した出力電流値と電流計で測定した電流値の差が大きくなります。また、電流計も実効値タイプと平均値タイプでは測定値が異なります。
2.誤差の対策
周辺回路素子では基準電圧用抵抗の精度は±1%の物を、電流検出抵抗も出来るだけ精度の良い物を使用し、基準電圧のラインのインピーダンスを低くし耐ノイズ影響を考慮することで誤差が抑えられます。
モーター仕様の誤差は如何ともし難く、バラツキを考慮して必要トルクに余裕度を持たせるなどの対策が必要です。
モーター電流の測定は、モーターのインダクタンスや測定機により異なること、モーターの特性はピーク電流の値で計測したデータであることなどを踏またうえで行うのが良いと考えます。
出来ればカレントプローブなどで電流波形を確認しておくことを推奨します。
ドライブICを使用する際はトータルの誤差は10~20%になると考え、トルクの余裕度を持って使用するなどの対応が良いと考えます。※3
※2. 0.5Aのモーターを動かす場合は標準電流値3AのドライブICではなく1AのドライブICを使うなど。
※3. あまり余裕度を取りすぎると発熱や音,振動が大きくなるため注意が必要。